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要旨:

本研究は、2007~2012年の四半期ベースの新車販売データを用いて日本の新車需要の構造推定を行うことで、2009年以降断続的に行われたエコカー減税・補助金の政策効果を推定しています。構造推定には、Berry-Levinsohn-Pakes(BLP, Econometrica, 1995)によって開発された「ランダム係数ロジット・モデル」を使用しています。BLP手法の利点は、推定された需要関数をもとに(Bertrand-Nash)市場均衡を明示的に解くことで、各車種の限界費用の推定を可能にし、さらに、需要関数と限界費用の推定値を利用することで、実際に取られなかった反実仮想的政策下における、市場均衡価格、販売シェア、消費者余剰、企業利益、税収に及ぼした影響などを厳密に定量化出来る点にあります。また、不完全競争、車種レベルの需要関数、車種特性(環境特性)を明示的に考慮した最適化問題を解くことで、日本の自動車産業の総経済余剰を最大化するような自動車税制(SBF政策)をデザインしています。本研究の推定結果によると、2009年以降実施されたエコカー減税・補助金政策は、政策を採らなかった場合と比較し大幅に総経済余剰を増加させたものの、新車の平均燃費に関しては限定的な影響しか及ぼさなかったと示されています。主な理由としては、ハイブリッドカーの販売を増加させる一方で、他の燃費の良い車種(例えば軽自動車)の販売を減少させてしまったこと、燃費のそれほど良くない車種の販売も促進してしまったことなどが挙げられます。他方、SBF政策は、エコカー減税・補助金政策と比較して、税の減収効果は同じであるにも拘らず、総経済余剰をよりいっそう増加させる一方、新車の平均燃費も大幅に改善させると予測されています。また、エコカー減税・補助金政策では(政策を実施しなかった場合と比較して)トヨタとホンダの’二人勝ち’の様相であったものの、SBF政策の下では、増益効果が他の多くの企業により均等に配分されると予想されています。

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